――努力で何とかなることは、驚くほど少ない。
並より頭一つ分くらい、飛び抜けることは可能だろう。けれどそこへ才能のある人間が出てくればあっさりと追い抜かれる。実際秋寅自身がそうだった。末の弟より六年も早く生まれながら、その弟が祖父から陰陽道やら呪学やらの手解きを受け始めて数年と経たぬ内に追い抜かれた。五つになったばかりの弟が既に己の式神である黄金の龍を従えて見せたというのだからこれ以上に嫌味な話はない。ちなみに秋寅は未だ己の干支を司る式を呼び出すことができない。陰陽道とはとことん相性が合わなかったようで、精々猫の姿をした式神を扱うことが精一杯だった。
上手く行くことは皆、最初から自身が持ち合わせた才能を磨いているだけに過ぎない。何故なら、知識や技術は努力でどうにかなっても努力家のセンスは天才のそれには到底敵わないからだ。
――そうして自分自身、持って生まれたこの才能で師であった男を数年の内に追い落とした。
秋寅は一人ごちる。
諦めから踏み出した道で成功するなど、幼いあの頃は思いも寄らなかった。
「――おい!秋寅、何を一人で黄昏ているんだ」
強い明りの点滅は、遮光眼鏡越しにも眩しい――
チカッ、チカッと激しく瞬く車のフロントライト。運転席の窓からは一人の男が顔を覗かせていた。男の嫌がらせ――というよりかは存在を無視した秋寅へのささやかな報復であろうが――に眩んだ眸をしぱしぱと瞬かせていた秋寅は、ようやく機能を回復した両目で男の姿を捉えて「ああ!丑雄兄さん」と底抜けに明るい声で従兄であるその男の名を呼んだ。
深夜であるというのに「丑雄兄さん、頼むよぅ。兄さんち、空港から近いっしょ?タクシー捉まらなくてさぁ。迎えに来てくんない?」と身勝手な電話をした秋寅を叱るでもなく、呆れたように「仕方のない奴だな」と車を出してくれた従兄とは性格にこそ共通点は見られないものの、歳が近い為かそれなりに親しい付き合いをしている。
「全くお前という奴は。帰ってくるなら帰ってくると一言連絡を入れたらどうだ」
「いや、帰ってくる気とかまったく全然これっぽっちもなかったんだけどさぁ」
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