瑠璃也とあきらは顔を見合わせ、しばらく互いに譲り合うようにしていたがそのうち時間の無駄であると気付いたらしい。ようやく瑠璃也が、太郎の掌から箱を受け取り丁寧にテープを剥がし始めた。
包みを解けば、オレンジ色の木箱が出てくる。なにやら天体図のような繊細な模様の彫られた木箱の金具を瑠璃也の指先が弾けば、まるで跳ね上がるように蓋が勢いよく開いた。
「・・・・・・ピアス?」
中を覗き込めば、ポストの先に赤い石のついたピアスが一組。やや拍子抜けしながら更に細部へ目を向ければ、赤い石の奥に何かが見えた。
――何か。
その「何か」を三人が確認できなかったのは、瞬間、パンっと小気味よい音がして目の前が白く染まった為である。
***
「あ、あれ?」
それはまるで意識を失っていたかのような感覚であった。まずは聴覚が戻り、店の外で騒ぐ子供の声が三人の耳へと入り、次に触覚が触れた箱の感触や僅かに冷えた空気を伝え、そして視覚がはっきりと周りの風景を映す――目の前の、箱も勿論。
「何が起こったんだ?」
狐につままれたような顔で、太郎が呟いた。気味が悪そうに例の箱を眺めれば、どことなく先の怪奇現象が起こる以前とは何かが違うような違和感を感じる。けれど、太郎がその違和感の正体を突き止めるよりも早く、瑠璃也がばちんっと勢いよく箱の蓋を閉めた。
「これやばい!絶対やばいって!」
情けなく眉尻を落とすその顔からは、血の気が失せている。
「何がやばいって、瑠璃也サンの顔のがやばいッスよ」
「失敬な!ていうか、あきら君や太郎には見えなかったかもしれないけどな、ほんと一瞬真っ赤な顔の何かがわっと出てきたんだって!すげえ形相で!」
「何かって言われても」
瑠璃也の表情が大袈裟すぎるせいか、あまり怖くない。
首を傾げる太郎と小馬鹿にしたように笑うあきらをムっとしたように睨み付けて、瑠璃也は「二人とも俺のこと馬鹿にして、怖い目に遭っても知らないからな!」と気味の悪いその箱を太郎の手の中へ押し戻した。
常日頃から非日常へ足を踏み入れている瑠璃也にそう言われると、訳が分からずとも何となく背筋が寒くなってくる。太郎は「秋寅叔父さんに相談してみよう」と押しつけられた箱を買い物袋の中へ押し込んだ。
あきらはそんな二人を見比べて「心配性っすね!ヘーキっすよ。だってたかが通販でしょ?」と呆れたように言った後で腕時計へ視線を落として「うわ、やっべ!」と顔を思い切り引きつらせる。
「もうこんな時間かよ!常磐サンに叱られるッ」
幻影書房を訪れてからの経過時間、およそ三十分。ちなみに荷はまだ幾つか残っている。
「遊んでばっかいるとクビになっちゃうよ、バイト君」
「あんたみたいな暇人に言われたくねえっつの!」
「鬼堂さんに呪われちまえ」口の中で毒づきながら、伝票や財布を突っ込んだショルダーを掛け直し、外へと急ぐ。営業所に残っているのが比奈であれば大人が小さな子供を叱るかのような注意で済むだろう、が、生憎比奈が休みの今日は副所長の常磐が代わりに営業所へと残っている。
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