地獄の大公とキャベツの上の悪魔の話
まったくお前ときたら、口ばかり動かして一日中キャベツの上に座っているのだからいけない。
良いか、悪魔の本分というのは、あの天のいと高き場所に座る我らが憎き父が作り上げ、我らより高き位置に置こうとした泥の人形を、最後の日までに一人でも多く地の底に落としやることだ。我らが偉大なる王はコキュートスの最下層にて腰まで氷に覆われながら、常にその金色の、二つの眼で同胞を眺め、その境遇を憂えている。
それだというのにお前ときたら、
◆◆◆
やれやれ大公様――敬愛する我が主、悪徳の為の悪徳を愛する御方、地獄に住まう誰より美しく淫蕩な御方、炎の戦車を操る御方――まあ、つまりはベリアル様のことだが。
最近とみに説教くさくていけない。
私のような下級の悪魔にだって、羽をのばしたいことくらいあるさ。一日中荷を引くロバではないのだからね。そもそも勤労な悪魔など地獄のどこを探しても見つけることなどできなかろう。
あのいと気高き我らが王とて、憂えるふりをしてコキュートスで苦しむ人間共をからかって楽しんでいるのが本当のところだ。
ん?なんだ?カイム。私の後ろに誰かいるのか?
おや、大公様!
我が親愛なる主君にして美しき御方!
そのような怖い顔をなさって!一体私に如何様な不満があるとおっしゃるのです。美しき御方。私はいつでも貴方様の御為に――え?煩いから黙れと?それはそれは。実に申し訳ありません。
ああ、そのように睨まれずとも私とて今から地上へ往こうと思っていたのです。
では麗しきベリアル様、私はこれにて。
END